ブラックオパール鉱山では頼りない梯子を頼りに、足を踏み外せば確実に命の保証はない、地下30メートルの竪穴を降りて宝石の採掘に立ち合ったり、ビルマやカンボジアでは、ゲリラや山賊の襲撃に怯えながら宝石を求めて奥地を訪れたりと、緊張の連続で、1日の商談が終了する頃には身も心もボロボロになるほど、精神的にも肉体的にもタフさを要求される仕事です。電化製品や工業規格品と違って、まったく同一の品物が存在しない宝石は、価格も均一では買い付けできない商品です。100回同じ品物を同じ宝石商に買い付けに行っても、100回とも価格は違うものです。そして、買い付けの優劣は、宝石ブローカーとの人間関係、支払い条件、買い付け金額、頻度、語学力などなど、複雑な要因によって大きく変動します。ある時(1999年春頃)、某大手宝石会社のバイヤーがバンコクで、パパラチアサファイアを1ct50万円で買い付けたと現地より情報が入りました。これは私が通常、買い付けをする数倍も高い価格で、私としても正直「参ったな〜」という心境でした。その情報から1週間後にバンコクを訪れましたが、同じクラスの品物をそれでも何とか、私は通常より2割程度の高値、20万円ほどで買い付けできました。その宝石商は、同じ日に某大手宝石会社のバイヤーに50万円で販売しているのに、なぜこれだけの仕入れ値の差が出るかと申しますと、現地の宝石商いわく、「彼は、全然宝石を知らないし、相場も知らない。豪華な接待をしてあげたら、こちらの言い値(売り手からの提示価格)通りに買ってくれたよ。どうせ、日本でも一流の店だから、高くても消費者は買ってくれるんでしょうね。でも、一流サラリーマンは幸せね」と皮肉たっぷりに、私に本音を語ってくれました。私自身、長年、サラリーマンバイヤーとして買い付けをしていた経験を思い返しても、残念ながら、この現地での宝石商の言葉を100%は否定できません。なぜなら、私自身も会社の金で仕入れをする時、ついつい甘い買い付けになったことは正直、幾度かあったからです。独立して、すべてが自分の責任になると、100%毎回の取り引きは真剣勝負となりました。やっぱり人間って現金なものですね。今では、欲しい品物がない時や相場が合わない時は、旅費交通費をかけて出張しても、何も買い付けずに帰国することもたまにはあります。しかしノルマを背負って買い付けにくるサラリーマンバイヤーにとっては、何も仕入れずに帰国することは難しいことです。ただし、多くのサラリーマンバイヤーの名誉を守るために申し上げておきますと、ほとんどのバイヤーは常に100%の真剣勝負の買い付けをしていると思いますが……。